稲美町では、令和6年度に将来の農地利用の姿を明確化する「地域計画」を策定しました。
日本人の主食であるお米や野菜を作る大切な農地を次の世代に引き継いでいくために、稲美町の農業が抱える課題や解決策について、農業関係の皆さんと話し合いました。[懇談日5月27日(火)]
参 加 者
・兵庫南農業協同組合代表理事組合長 野村 隆幸さん
・稲美町農産部長会長 赤松 愛一郎さん
・稲美町土地改良事業連絡協議会長 本岡 秀己さん
・稲美町有機農業研究会長 大竹 雅彦さん
・稲美町長 中山 哲郎
農業の現状と課題
(町長)
本日は、町内の農業関係の皆さんにお集まりいただきました。
農業の現状や課題をどのように考えておられますか。
(赤松)
地域の中では、農家の高齢化や、農産物の価格が安定しないことで廃業しているケースがあります。
やはり安心して農業ができるような支援も必要ですし、地域の中で農産物が多く生産されることで、消費者にとっても地産地消の安全な米や野菜が購入できると思います。
(本岡)
今、町内では田植えのシーズンを迎えていますが、改めて水の大切さを感じています。土地改良区としては、今後も安心して米作りが続けられるよう、基盤整備をする必要があると思います。
(町長)
現在、米の値段が高騰しており、町内でも困っている人も多いと思います。現在、稲美町では約750 ヘクタールの田んぼで年間約4,000トンの米が生産されています。稲美町でとれたお米を住民の皆さんが安心して買える仕組みがあればいいなと思います。
(野村)
年間特約のような形が取れればいいですね。
JAとしても農家の皆さんに安心して米を作っていただけるような値段で買取を行うとともに、消費者の皆さんには適切な価格で販売をしていきたいと考えています。
米の適正価格は
(町長)
昨年から米の値段が上昇し、流通価格が平年の2倍(スーパーでの全国平均4,260円 5月25日現在)となり、政府による備蓄米の放出を決めました。一方で、米の値段が上昇する前は、長年にわたり価格の低迷が続き、米の生産者は赤字が続いている状況とされていました。皆さんは米の適正な価格はいくらだとお考えですか。
(大竹)
この度、JAの仮渡金(かりわたしきん)(※1)の最低保証価格が3 0 k g でコシヒカリ11,500円、キヌ・ヒノヒカリ11,000円(5kg換算で約2,000円)と示されました。昨年以前と比べると上昇していますが、実際のところは農機具や肥料などがすべて値上がりしているので、農家にとっては最低それくらいの価格でないとやっていけないと思います。
(※1)米の精算完了前に農業者へ支払われるお金。
(本岡)
農家としても自ら米の値段を上げることはできないし、ここまで米の値段が上がるとは予測できなかったでしょう。
(野村)
JA兵庫南としては、令和7年産米の仮渡金については最低保証価格を設定し、生産者の皆さんに安心して作付けをしていただける環境整備を行いました。しかし、米の値段の急上昇を受けて増産や米離れも見られます。その影響によって来年度以降、米が余るようなことになれば、米の値段は一気に下がるのではないかと心配しています。
※日本の一人あたりのコメの年間消費量も年々減少しているよ
昭和37年 令和3年
118kg/1人 ➡51.5kg/1人
(大竹)
昔は、政府が決めた買い取り価格によって米の値段は安定していましたが、その後、自主流通となったことで米の生産者が、自ら自由に販売できるようになったため、米の値段も徐々に下がっていきました。
(野村)
減反政策(平成30年廃止)により、どんどん米の生産面積と生産量を減らしてきたために、現在のような状況になっています。
(赤松)
消費者にとっては、米の値段は安いに越したことはないですが、少なくとも生産者が農業を続けられるだけの価格を維持した上で、米の値段が決まっていくべきだと思います。
地域の農業の担い手は
(町長)
今、米の増産の話が出ていますが、町内の営農組合の平均年齢は70歳という状況にあります。
地域の担い手の見通しはいかがでしょうか。
(大竹)
昔は、60歳で会社を退職してから営農組合を手伝っていましたが、今は70歳まで会社で働く時代となり、なかなか人手が集まらない状況です。このままではこの先、誰が地域の農地を守っていくのか心配しています。
稲美町には町内はもちろん、周辺地域にも多くの消費者がいて、大きな直売所もあるのだから、住民の皆さんは地元で採れたおいしい野菜や米を買うことで農業を支えることにもつながるでしょう。また、町内の営農組合でも、都会の人に米作りを手伝ってもらって農業をするオーナー制を導入したりしているところもあると聞いたことがあります。
(赤松)
この度、町では地域計画を作られましたが、計画策定時のアンケートを見ると、後継者がいない農家もたくさんある中で、私の地域でも今後の担い手の問題を解決するために、営農組合を作ろうという話も出ています。やはり、地域の農地は地域で守っていくのが良いと思います。
(町長)
全国的にみると、企業や若い人がまとまった農地を借り受けて、地域の農地を守るというケースも出てきていますね。米の値段が上がって農家が生活できるレベルになれば、町内にもそういった話が出てくると思います。
(本岡)
また、担い手が少なくなる中で、今は、ドローンを使ったり、ほ場(※2)を大区画化したりして作業効率を上げていくことも必要ですね。また、町内には小さな土地改良区が数多くありますので、これからは土地改良区の広域化なども考えていく必要があると思っています。
(※2)農作物を栽培する場所のこと。
(町長)
現在、岡地区では、ほ場の大区画化とパイプライン化のための再整備を進めています。農地中間管理事業(※3)を活用し、担い手に農地を集積・集約化させることで、農家の負担も軽減されます。
(※3) 農地の所有者から農地を借り受け、まとまりのある形で担い手へと貸し付けること。
農業の重要性への理解促進
(町長)
今回、米の値段が上がったことで、一方では、農家の皆さんが赤字を出しながらも地域の農地を守り、米を作っていることを消費者の皆さんにもわかっていただくいい機会になったと思います。
今後、農業に対する理解を高めていくにはどうしたら良いでしょう。
(赤松)
稲美町は結構都会にも近いので、都会に住みながら農業をやってみたいという人を上手く巻き込んでいってはどうでしょうか。
(野村)
今、町内で有機農業の教室ができていますが、そこに参加する人も30代や40代の若い女性がとても多い印象です。それだけ、安全・安心な食に関心の高い人は増えてきています。
(本岡)
私の地元の土地改良区では、トライやる・ウィークの受け入れを行います。
若い人たちに少しでも農業のことや水の大切さを知ってもらう機会になればと思います。
(大竹)
営農組合として、農業をするうえで必要な作業としてトラクターで道路を走ることもありますし、農地で草を焼くこともあります。また、町内には養蜂(ようほう)をしている農家もいらっしゃいますので、消費者の皆さんにも農業への理解をいただけたらと思います。
(町長)
本日は皆さん本当にありがとうございました。
日本にとっても、稲美町にとっても、農業はなくてはならない大切なものですので、課題は多いですが、先祖から受け継いだ農業資源をしっかりと次の世代へ受け継いでいきたいと思います。